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全体評
全体としてはベタベタな話に美しい映像をつけて感動を作り上げるTVアニメ「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の作風を引き継いだ佳作だと思う。
劇中で使用されたTV版ED「みちしるべ」が感動を誘発する装置として十全に機能してて、これこそがTV版からの連続性を感じられている証左かなーと。
ただ、物語は「落ち着くところに落ち着いた感じがあり鑑賞後の気分は悪くない」けど過程の強引さにフラストレーション。
映像は特に前半部分で謎のレイアウトや極端な俯瞰など癖の強いカットも多く、映像への没入感は正直なところ期待を下回る……。と云った感じでどうしても「完成度が高い」とは言い難い。後半はそこらへんちゃんと据わって見やすくなった印象。
瀕死の少年「ユリス」とその最期
自らの死を予期しつつも家族や友人に正直に接することのできない少年「ユリス」がヴァイオレットへを通じて手紙を書き素直な気持ちを死後に吐露できるよう図るエピソード。
「ベタな話に綺麗な絵をつけると感動する」というこの作品らしさが一番体現できている部分だと思う。死の直前のユリスの驚きの白さやわざとらしいほど無邪気に描かれた弟には少しギョっとしたけど、それでも全体に満足の出来だった。
郵便の将来を案じるアイリスの電話に対する「いけすかない機械」といったセリフの強調具合は「いかにも」だったけど、回収に当たるユリスとリュカの通話シーンでは彼らが客を尊重していることが改めて伝わって素直に良かった。郵便配達は幸せを運ぶ仕事。
マグノリア家の娘、「デイジー」
クラーラ・マグノリアがアン・マグノリアに向け50通の手紙を書いたTV版のエピソードのその後。ヴァイオレットの生きた時代と現代を繋ぐ橋渡し的なエピソードでもある。
アンの孫(クラーラの曾孫)であるデイジーが初っ端からツンデレムーブ全開でまあその後が分かりやすい話。正直食傷に片足突っ込んではいるんだけどやっぱり素直な気持ちを伝えるのって難しいので説得力はあって悪くなかった。
こちらは「没後の母からの手紙」を「数十年後の孫が見返す」という手紙だからこそできることを示すエピソードということで挿入されたんだろうな、という感じがある。
ヴァイオレットとギルベルトの再会
この映画の主軸であるメインエピソード。……であるのだが、一番粗が目に付いてしまったかな……。
筆者は本編は放送当時(2018Q1)に見たきりで特に復習することもなく、近頃触れた今作に関わるものは「外伝 永遠と自動手記人形」人形だけだったから回想の多さはそんな苦痛ではなかった。
まあそれでも多少過剰な印象は受けたけど……。(熱心なファンであれば停滞した虚無の時間であることは想像に難くないが)
どちらかといえば、頭を過ったのは「テレビアニメ終了時点でヴァイオレットってこんな感情に乏しいとぼけたやつだっけ?」という疑問。
ギルベルトの思いに囚われ不安定になっていることを加味しても終盤との落差を強調するためにこうなってしまったような印象をどうにも受けてしまった。
ここに限らず作劇は多少強引。よく指摘されるのは
ラストの「出航した船から遠く離れた崖の声を聴く(他に諸々雑音があるのにそんな距離で普通聞こえるのか?)」
「船から降り泳いでいくシーン(あっさり辿り着くが着衣泳では相当な時間がかかるのではないか?)」
のあたりだけど、私的にはまあ許容できる。単純な誇張として受け取れるから。
許しがたいのはヴァイオレットが島の子供に託した手紙がギルベルトとクラウディアの対話中に滑車で届けられるシーン。
子供側にはこんな届け方をする合理性無いしなによりこのワンシーンで子供が非常識な存在に貶められちゃってるんだよね……。要するに、「二人が対面している間に手紙を読ませたい」という作劇の都合のために島の子供を踏みにじってる。人の気持ちをメインテーマとしてきたこの作品の基盤を破壊してしまうような恐るべき冒涜だと思う。
そして二人が再会を果たし抱き合うシーン……。正直なところ、「間延びしてる」と思った。
ほぼ意味ある言葉を紡げないヴァイオレットと情けない語りを続けるギルベルトによる一方的なラブシーンは正視に耐えない。波の表現が精巧すぎて不気味の谷に片足突っ込んでるな~とか思いながら見てた。
あとホッジンズさんの扱い難しくない……?
主人公が頼りないタイプの作品は側にどっしり構えたキャラがいるのが世の常なのでヴァイオレットが不安定な今作ではより「大人」の役割を求めてしまうところがあると思うんだけど、ホッジンズさん自体は激情型でそういうキャラじゃないんだよね。
そのこと自体はTV版から変わってないはずなんだけど役割のせいでなんかいつも以上に不安定に見える気がする……!まあそれでも憎めないキャラではあるんだけど。
ついでとばかりに踏み込んで共感得られなそうな話するけどギルベルトの愛が当然のように性愛なのびっくりした。
ヴァイオレット→ギルベルトがそれでもまあ不自然じゃないしヴァイオレットに次第に絆されて……みたいな感じで最終的に性愛になるみたいな展開は想像の範疇にあったけどめっちゃシームレスに性愛出されてびっくりした。
でもこれは少数派の自覚ある……命短し生殖せよ人間
そんな感じでまあ各所に引っ掛かりまくったのだがヴァイオレットが幸せそうで良かった。これは確か。
総まとめ
外伝という最高の公式二次創作が好きだっただけで俺はもともと「TVアニメ版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」が好きではなかったのでは……?
言ってしまうと概ねこれだと思う。
思い返すと源流たるTVアニメ版のラストもあんま腑に落ちてなかったんすよね。忘れてたけど。
そうなるとTVアニメ版スタッフが引き続き作った劇場版にハマれないのはある種の必然で、
藤田春香監督&脚本・浦畑達彦の外伝がぶっ刺さったのがある種の奇跡っぽい。
参考リンク
本編冒頭10分(公式)
unuboreda氏の評
奪われた聲の形 - 石立太一『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
(https://t.co/KEfyfzqmwZ)
今年ワーストどころか、人生で一番嫌悪した映画かもしれない。これを良しとするならば、自分が今まで京都アニメーションについて考えてきた全てを否定することになるのでちゃんと書きました。— unuboreda (@Mrbitss) September 25, 2020
笠希々氏の評。ツリーに動画あり
https://twitter.com/animekannsou/status/1325041056639971328
余談
当時のツイート
「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」私的感想 (ツリーに続く)
・全体的にはベタベタな話に美しい映像をつけて泣かせる今作らしい感じで割と良かった
・前半部分は謎レイアウト多くて正直何がしたいのかよくわからなかった……
— 謳歌 (@ouka_puyo) November 7, 2020
あとあれっすね
初日勢みたいな熱心な人でなくこんな遅い時期でも映画館の周囲から泣く音しまくってたの凄いっすね かくいう私もちょっと泣いちゃったんですけど— 謳歌 (@ouka_puyo) November 7, 2020
映画に始まったことじゃないシリーズだけどベネディクトくん機能性低そうな靴にやたら背中寒そうな服着てるのヤバすぎる シコられるために生み出されてるだろ
— 謳歌 (@ouka_puyo) November 7, 2020
あとカトレアさんこんなデカかったっけ!?って思った
— 謳歌 (@ouka_puyo) November 7, 2020
さっきから余韻破壊ツイートしかしてなくてファンに刺されそう
— 謳歌 (@ouka_puyo) November 7, 2020